月刊なぐさとべ第3号

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月刊 なぐさとべ vol.03
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前回の「月刊 なぐさとべ」では、ポリネシア人のカヌ
ー(船)と樹木の信仰や民族のルーツが、海洋民族であ
った古代名草とも共通点が多いことを明らかにした。今
回は、ポリネシア人や東南アジア、日本列島などに見ら
れる古代の生け贄祭祀について。現代人の心性には、と
うていそぐわない生け贄には、一体どんな意味があった
のか。

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ハイヌヴェレ型神話と生け贄祭祀の話

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<ポリネシアの生け贄祭祀>

ポリネシアでも、かつて生け贄祭祀が行われていたそ
うだ。
ポリネシアでは、大きなカヌーを造る場合は、その作
業は何年にもおよび、船大工が数百人に及ぶこともあっ
た。船の建造主は大人数の船大工たちに食事を提供した
という。カヌー造りは、大変な労力を要する作業だった
のだ。
カヌーが完成した後は、生け贄を得るために、近隣の
部族を襲撃するケースもあったという。ポリネシア海域
の古代人が生け贄の儀式を行ったのは、人間に「マナ」
という超自然の力が宿ると信じられていたからだ。人間
を犠牲にして、「マナ」を自然の精霊に捧げることによ
って、カヌーの無事を祈ったのだ。
ポリネシアの古代人にとってカヌーは、人間の生命よ
り大切なものだった。

<生け贄の意味>

生け贄は、西欧文明社会からは、野蛮な行為として批
判されてきた。もちろん、現代の倫理観からすると、到
底容認できるものではない。

しかし生け贄の儀式から見えてくる古代の風景は、わ
たしたちが忘れ去った大切なことを内包している。

環境考古学者の安田喜憲氏は、生け贄の儀式は、古代
人が人間の生命より、自然(=カヌーを造る木)の方を
上位に考えていたことを表している、という。古代人に
は、人間が生きるためなら、森の木々を破壊してもよい
という発想はない。逆に、森に生かしてもらうために、
人の命を森の精霊に捧げたのだ。

生け贄の儀式は、自然と共生していた人々の心性がも
たらしたものだった。

<ケルトの生け贄祭祀>

生け贄祭祀は、ローマ帝国の侵入以前のケルト文化に
も見られる。
狩猟と農耕を営むケルト人にとって、自然の猛威は恐
ろしいものだった。ケルト人たちは、遠く離れた暗い森
には、大きな力をもった恐ろしい精霊が大勢、棲んでい
ると考えていた。それらは、樹木や岩山、泉などに棲み、
人間を忌み嫌っていると考えた。
精霊というと善良なイメージで語られることが多いが、
が、ケルトの精霊は人間にひどいイタズラをする者も多
い。

そこには、ケルト人の自然に対する畏怖の念が反映され
ているからだ。
ローマ軍に追われたケルト人が最後に移住したのは、
アイルランドやスコットランド、フランスの一部だった。
北アイルランドでは、昔、バン河の女神に捧げるため、
毎年子どもを一人、生け贄に捧げていたという。バン河
が荒れて洪水を起こさないように祈るためだ。ローマ帝
国侵攻後も、この習慣をなくすことはできなかったとい
う。

<日本の生け贄祭祀>

日本にも、よく似た生け贄祭祀がある。
まず、ひとつ目は、ナグサトベの遺体切断伝承だ。こ
れはハイヌヴェレ型神話と同型で、五穀豊穣の祈りを捧
げるための、人身供儀と考えていい。
『魏志倭人伝』には、船が出航する際「持衰(じさい)」
という人間を乗せる話が出てくる。航行が無事に済めば
持衰は歓待を受けるが、嵐などで支障をきたした場合は、
その責任を取るために殺されたという。この場合も、自
然の猛威に対する畏れから、生け贄を捧げる風習が生ま
れたと考えられる。
日本では、江戸時代になっても、橋の建造などの際、
人柱の習慣があった。橋を打ち砕く暴れ川の、自然の猛
威を鎮めるために人柱を必要としたのだ。
それらは一見、残酷にも思えるが、自然に対する畏怖
の念が、それだけ強かったということだ。

<神話的思考回路の復活に向けて>

現代において、生け贄祭祀をする必要はない。わたし
たちは古代のことを俯瞰し、研究し、自然を人間より上
に考える精神があったという事実に着目すれば、それで
事足りるからだ。
ナグサトベたちが生きたはるか古代の人たちは、地球
規模で自然に対する畏敬の念をもっていた。その心は、
自然を目に見えない精霊として擬人化した物語や、人間
にマナという見えない力が宿るといった素晴らしいイ
マジネーションの中に顕れている。そのことを心に刻む
ことが大切だ。
わたしは、こうした心の持ち方を「神話的思考回路」
と呼んでいる。現代人も、心の奥に眠っている「神話的
思考回路」をほんの少しでも復活させれば、豊かに生き
ていくことができるだろう。

2011年7月15日 なかひら まい

参考文献
『大和王朝の水軍~神武移住団と結んだポリネシアン
の秘史』中島洋/著
『一神教の闇 アニムズムの復権』安田喜憲/著
『ケルトの精霊物語』ボブ・カラン/著 萩野弘巳/訳


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『名草戸畔(なぐさとべ)古代紀国の女王伝説』
なかひら まい 著
小薮繁喜・小野田寛郎 取材協力
小野田麻里 写真
スタジオ・エム・オー・ジー 刊
リアル書籍 1,500円+税(名草山ポストカード付)
電子書籍(iPadのみ対応) 900円税込(カラー図版/カラー写真 多数収録)
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