月刊なぐさとべ2011年8月14日号

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月刊 なぐさとべ vol.04

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名草戸畔講演会レポート

 この講演会実現のきっかけになったのは、名草戸畔本
の出版直後にいただいた一通の手紙だった。手紙の主は、
阪東晃一さん。名草神社宮司家・T家のご親戚の方だ。
阪東さんは、子どもの頃、お祖父様から「名草山に神様
が降りたってあたりを治めた。その時の家来がいて、T
家の先祖はその何番目かの家臣であった」という言い伝
えを聞いたことがある、というのだ。

 T家といえば、明治時代の時点で65代になる旧家で、
代々名草神社(元・中言神社)の宮司家だ。わたしは以
前、和歌山取材で名草神社に訪れた際、偶然、現・宮司
のTさんにお会いしたことがある。

「先代が詳しかったのですが、ついこの間亡くなってし
まいまして、神社のことは、わからなくなってしまった
のです」

 Tさんは、そうつぶやいた。わたしたちがナグサトベ
について調べているというと、参考にして欲しいと亡く
なった先代宮司が書いた明細帳のコピーをくださった。

 本ができたのは、それから2年後の2010年暮れ。お
世話になった神社に献本したところ、大変な反響をいた
だいた。いろんな事情で地元の人すら分からなくなって
いた伝承を再発見した価値を最初に理解してくれたの
は、やはりナグサトベ縁の神社の方達であった。

 阪東さんは、わたしがTさんに献本した名草戸畔本を
読んで、手紙を送ってくれた。実は、阪東さんのお祖父
様というのは、亡くなった名草神社の先代宮司だった。

 阪東さんは、現在、ホリスティックネットワークの事
務局長を務めている。「ホリスティック」とは、伝統医
学、東洋医学、精神活動など、すべてを総合的に利用し
て病気を治していくという考え方のこと。和歌山のホリ
スティックネットワークは、西本クリニックの西本真司
院長が主催している。

 ホリスティックネットワークでは、毎年、いろいろな
ジャンルから講師を招いて講演会を開いている。そこで
夏にはナグサトベの講演を、というお話をいただいたの
だ。話をいただいたのは、私が今年の3月20日にカン
タ・デル・ソルの閉店お別れパーティに和歌山に行った
ときのことだ。

 西本先生も『日本書紀』とはちがい、土地の人たちの
目線で語られてきた伝承が和歌山に残っていたことに、
大きな関心をもっていた。

 講演の2週間前には、『ニュース和歌山』にも情報が
掲載された。編集長の高垣善信さんは、ナグサトベの本
を読んで「和歌山に対する見方が確実に変わる本」と評
価してくださった。3月には取材も受け、ナグサトベ伝
承は大きく取り上げられた。

 そうやって、たくさんの人たちの協力を得て、7月
24日を迎えた。

 驚いたことに、開演時間が近づくにつれ、会場には、
どんどん人が集まってきた。後で聞いたところ来場者は
91人。スタッフを入れると100人を越えていた。有料
の講演会にもかかわらず、たくさんの人にいらしていた
だき、本当に感謝している。

『名草戸畔(なぐさとべ)』の本は、30代によく売れ
ていると書店の方から聞かされていた。しかし、当日、
会場にやって来たのは、年配の方が多かった。

 本書にも記したが、ナグサトベ伝承は、戦時中、いろ
んな事情で公に語られなくなった。戦後66年というこ
とを考えれば、60代・70代の方たちはちょうどナグサ
トベ伝承を知ることができなかった世代の人たちだ。

 この本で伝承を採集した小薮繁喜さん、小野田寛郎さ
んは現在80代後半。彼らが伝承を聞いた最後の世代な
のだ。

 ナグサトベの名前は聞いたことがあっても、詳細につ
いて知らない方たちが、伝承を知ろうとたくさんやって
来たように思われる。聴衆のみなさんからすると若輩者
の私が語り部だというのもおかしな話だが、同時に、語
り部の役割をおおせつかったことをありがたく思いな
がら、お話しをさせてもらった。

 会場には、本にたくさん付箋を付けているマニアック
な方と、本を読んでいない方が半々ぐらい来ていたよう
だ。限られた時間で深いところまで話すよりも、本の内
容をわかりやすく伝えることを優先した。だから、マニ
アックな方には少し物足りなかったかもしれない。
 わたしが言いたかったことは、とてもシンプルだ。箇
条書きにすると次のようになる。

1.ナグサトベは、ここにいるみなさんの遠い祖先である
こと。

2.王権によって押しつけられたストーリーではなく、
「ここに住む人たちの思いが語り継がれた物語が残っ
ている」という事実が重要であるということ。

3.権力とは無関係な素朴な自然信仰が、名草山、楠(イ
タケル)、山の祖霊信仰として、今もはっきりと残って
いること。

4.こういう物語が見えなくなることによって、山の自然
に守られているような安心感や、自然に対する畏怖の現
れとしての妖怪に出会う「感受性」が失われると、確実
に心は荒んでいく。和歌山には、名草山をはじめ、こう
した感受性を取り戻す装置がたくさん残っているのこ
と。その財産を、どうか大切にして欲しいということ。

 会場には、故・吉野裕子氏の弟子だったという民俗学
の先生や、郷土史を研究している方もいらっしゃった。
かと思えば、名草山をカンナビ山であったことを知らず、
登山の練習用の山として登っていた方もいた。そういう
方にとっては、かなりインパクトのある話だったと思う。

 和歌山に限らず、各地の伝承は忘れられ、心の財産や、
観光資源にもなるような神社の価値を自ら捨ててしま
いがちだ。町おこしにゆるキャラの着ぐるみをつくって
いる場合ではないのだ。その土地の伝承に静かに耳を傾
ければ、観光資源など、いくらでも掘り起こせる。

 わたしは伝承も何もなく、妖怪も出ない埋め立て地で
生まれ育った。東京都民が出したゴミの上につくられた
土地に暮らしていた。そんなわたしにとって、縄文時代
からの伝承が残る和歌山は夢のような場所だ。

 一度捨てられた古い伝承を「再発見」する時期が来て
いるのかもしれない。

2011年8月14日 なかひら まい


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『名草戸畔(なぐさとべ)古代紀国の女王伝説』
なかひら まい 著
小薮繁喜・小野田寛郎 取材協力
小野田麻里 写真
スタジオ・エム・オー・ジー 刊
リアル書籍 1,500円+税(名草山ポストカード付)
電子書籍(iPadのみ対応) 900円税込(カラー図版/カラー写真 多数収録)
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STUDIO M.O.G.のショップでは
著者サイン&イラスト入りの本を販売しています。
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