月刊なぐさとべ9月12日号

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

月刊 なぐさとべ vol.05

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
遺体切断伝承の謎を解く
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

「ナグサトベの遺体を三つに切断して埋めたのは、怨霊
封じ込めのためではないでしょうか。神武軍にやられた
わけですし」

たまにそういう感想をいただくことがある。本を読ん
だ方はご存知かと思うが、遺体切断伝承のわたしの見解
は「怨霊鎮め」ではない。簡単に書くと次のようになる。

ナグサトベは遺体を三つに切断され、三つの神社に埋
められた。それぞれの神社は、主祭神とともに食物の神
である「ウガノミタマノミコト」が祀られている。さら
に頭やお腹や足を守る神様として、現代でも和歌山市海
南市の人たちに慕われている。
この遺体切断伝承は、ハイヌヴェレ型神話の「類型」
といえる。ハイヌヴェレ型神話とは、殺され、切り刻ま
れた女神の身体からイモや雑穀が生えてくるというス
トーリーを持つ神話のこと。主に東南アジアから日本ま
で広く世界に分布している。農耕を営むアジア人にとっ
て、穀物発生の起源を説明する物語だ。すると遺体を切
断されたナグサトベは、土地の人たちに「穀物の神=豊
穣の女神」として愛されてきたと考えられる。怨霊とし
て鎮める対象にされてきたとは、とうてい思えない。

本文ではもっとページ数を割いてハイヌヴェレ型神話
について書いた。
ところが本を読んだあとでも「封じ込めではないか」
という疑問の声を上げる人がいる。自分ではかなりくわ
しく説明したつもりだったが、まだ足りなかったようだ。
そこで今回の「ナグサトベ通信」で、そのことについて、
もうちょっと書き足すことにした。

「封じ込め説」に唱える人はたいてい「遺体切断=残
酷」という先入観をもっている。つまり「理由がどうで
あれ、そんな悲惨なめにあったのだから、怨んでいるに
決まっている」という考え方が立脚点になっている。
しかし、それは現代人の視点にすぎない。
縄文や弥生に生きた人たちが、果たして、遺体を切断
する=残酷という考え方をもっていたのかどうか。まず
そこから検証する必要がある。たしかに遺体をわざわざ
切断して埋めるという行為は、現代人の感覚からすれば
気持ちのいいものではない。切断された遺体からイモや
穀物が生まれるというハイヌヴェレ型神話も、とらえよ
うによっては、何とも薄気味悪い話だ。一体どこが五穀
豊穣なのかさっぱりわからない人もいるだろう。
しかし、それもこれも現代人の感覚にしかすぎない。
果たして現代人の尺度で古代に生きた人を計ってもい
いのだろうか。古代史の本のなかには、古代人の心の状
態が現代人とは違っていることを考慮せず、無自覚に現
代人の心を投影しているケースも目につく。
それこそ古代人にとって「残酷な行為」なのではない
か。

林道義氏の『ユング心理学と日本神話』によると、神
話には、普段の意識には顕れない「元型的な意味」をも
つ事柄が記されているという。
たとえば、『古事記』には、スサノオが母を恋しがっ
て泣きわめくと、青山を枯らし河や海はことごとく枯れ
るという、かなり大げさな表現が見られる。
このスサノオの泣き方をみて「母に対する甘え」を表
しているという解釈をする人が多い。しかし、林氏によ
ると、それは「意識の表面で神話を解釈しているにすぎ
ない」ということになる。

=================
神が泣くのを甘えて泣く、あるいは子供だから泣くと
見るのは、言わば「人間的」意識的な見方であって、神
話のシンボルを解釈するさいの正しい見方とは言いが
たい。神は決して弱くて泣くのではない。神が泣くとき
はたいへん恐ろしいのであって、そのときは世界が不毛
になり、あらゆる植物は枯れ死に、動物は死滅し、世の
中は暗闇となる。反対に神が笑うと世界の生気は復活し、
花は咲き鳥は歌い穀物が実る。
(『ユング心理学と日本神話』より抜粋)
=================

切断した女神の遺体から穀物が発生するという神話も、
人間の普段の意識とは異なる次元の物語だ。
視野を広げてこの神話をとらえると、女神の身体は地
球を表し、穀物はそこから生命が芽生えるといった、ダ
イナミックな世界観を表しているようにも思える。字面
だけを追うと薄気味悪い話のように思えるが、実は、物
事の始原を表すような、元型的な物語だと解釈できるの
だ。
ハイヌヴェレ型と同型の物語を内包するナグサトベ遺
体切断伝承も、同じように元型的な意味を含んでいる。
この物語の字面だけを追って、残酷であるとか、神武軍
に殺された恨みが云々といった「人間的な次元」で捉え
るのは実に短絡的であり、正しい見方ではない。ナグサ
トベは生命の芽生えを象徴するしあわせなシンボルな
のだ。
ナグサトベ伝承は、元型的な物語が消されず(意識下
に埋もれず)、生命力に溢れた物語に宿って生きながら
えてきたのだ。怨霊になる理由は見あたらない。

2011年9月12日満月 なかひら まい


----
『名草戸畔(なぐさとべ)古代紀国の女王伝説』
なかひら まい 著
小薮繁喜・小野田寛郎 取材協力
小野田麻里 写真
スタジオ・エム・オー・ジー 刊
リアル書籍 1,500円+税(名草山ポストカード付)
電子書籍(iPadのみ対応) 900円税込(カラー図版/カラー写真 多数収録)
-----

STUDIO M.O.G.のショップでは
著者サイン&イラスト入りの本を販売しています。
どうぞご利用ください。

-----
なかひら まい公式サイト:http://studiomog.ne.jp/nakahira/
STUDIO M.O.G.のショップ:http://studiomog.ne.jp/moon/
名草戸畔(なぐさとべ)公式サイト:http://studiomog.ne.jp/lineup/nagusa/
名草戸畔(なぐさとべ)ツイッター:http://twitter.com/nagusatobe
公式無料メルマガ「月刊なぐさとべ」:http://www.mag2.com/m/0001281151.html 
-----